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<書評>『レモン石鹸泡立てる』東(ひがし)直子 著:東京新聞 TOKYO Web - 東京新聞

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◆短文で思い伝えきる
[評]東(あづま)えりか(書評家)

 最近、短歌がブームだと聞く。新宿のホストやアイドルたちが詠む歌は、なるほど確かに面白い。だが現代を代表する歌人の作品となるとやはりひと味もふた味も違う。どこで覚えたか忘れたが、歌人で小説家でもある東直子さんの歌をときどき思い出す。

−ええそうよそうそうそうよそうなのよ炭素のような祈りの美学−

 本書はその東さんのエッセイと書評集である。エッセイはともかく、書評となると私のテリトリーだ。同じ作品を違う解釈で読み解いてないかと心配したが、それは杞憂(きゆう)だった。

 書評界という狭い社会でも、どうやら東(ひがし)さんと東(あづま)の領分は全く違っているようだ。まるで、やじろべえの両側のように向こうとこっちで相対している。だから安心して書評もエッセイも楽しむことが出来て、その結果《そうそうそうよそうなのよ》と呟(つぶや)いていた。

 短い文章で思いを伝えきる歌人ならではの言葉の選び方は誰にも真似(まね)できない。

 例えば内田百閒『恋文』の文庫解説。百閒から、後の妻である清子への熱烈すぎるラブレターの数々が私はとても怖かった。だが東さんは“愛の言葉の記憶”と評す。百閒からの手紙を読む清子の姿を彷彿(ほうふつ)とさせる言葉だ。

 「夜明けのマナー」というエッセイでは美しい朝焼けの中で“さあさあと涙が流れる”という。経験はないけれど、自覚なく涙腺がゆるんだ時の涙はたしかに《さあさあ》と頬を濡(ぬ)らすんだろうと思う。

 本書には内田百閒の他にも江國香織、野中柊、ダン・ローズ、岡本かの子、堀江敏幸、野中ともそ、綿矢りさの文庫解説も収録されている。文庫解説はその小説の一番の応援歌でなくてはならないというのが私の持論だ。東さんの解説は見事にその役を果たしており、どの作品もすぐに読みたくなるだろう。

 思いもかけない疫病や、戦争の足音が空耳でないかもしれない現実のなか、新たな小説の出会いとして、懐かしい風景を思い出す縁(よすが)として本書を手に取ってほしいと思う。

(共和国・1980円)

1963年生まれ。歌人、作家。小説に『いとの森の家』『階段にパレット』など。

◆もう1冊

東直子著『春原さんのリコーダー』(ちくま文庫)。本文で引用した歌を収録するデビュー歌集。

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