戦争の体験から生まれた、世界平和のビジョン
──ドクターブロナーの製品の特徴とも言えるのが、ラベルにびっしりと記載された企業理念の「オールワンビジョン」です。75年前の創業当初から提唱してきたこの理念が生まれた背景について教えてください。
ドイツのユダヤ人街のソープメーカーの3代目として生まれた祖父のエマニュエル・ブロナーは、ドイツにおけるソープ製造で認められた後、1929年に21歳の時に単身アメリカに移住しました。そこでソープメーカーのコンサルタントとして成功を収めたのですが、時を同じくして第二次世界大戦が勃発し、ホロコーストで両親を失ってしまったんです。
この悲劇から、彼はあらゆる宗教や人種の違いを超え、地上に生きとし生けるものすべての結束や、人類が共通の“人間性”を認識し、互いに愛し合うという世界平和を願う「オールワンビジョン」を導き出しました。そして、より多くの人々にこの理念を啓発すべく、1948年よりペパーミントの液体石けんのラベルにこのメッセージを記載するようになったのです。
──「オールワンビジョン」が見据える世界はどういうものでしょう?
「オールワンビジョン」は、出身地や、宗教、性別、人生経験の長短、民族性、性別指向、そして政治的信条のすべてを超えた“人間宣言”です。そして、実際の事業展開においては、魂を込めたモノづくり「SOAP&SOUL」をキーワードに、祖父の哲学から派生した“6つのコズミックプリンシプル”を掲げています。
①よく働き、成長すること
②お客さまのために正しくあること
③従業員を家族の一員のように大切にすること
④原材料生産者に対して公正であること
⑤地球を自分の家のように大切にすること
⑥正しいことのために投資し、戦うこと
この6つの原理こそが、ドクターブロナーの支柱となり、あらゆる事業活動の誠実さの源になっています。
──海洋生物学者で作家のレイチェル・カーソンが『沈黙の春』を出版した1962年を境に、アメリカを中心に原材料や自然環境に対する消費者意識が変化しました。そして、現在では気候危機への取り組みが急がれています。75年の歩みの中で、企業として社会の変化をどのように感じてきましたか。
『沈黙の春』に触発された環境保護運動は、1960年代、特にアメリカで広範にわたる社会的・文化的変革の基盤となりました。そして、カウンターカルチャーの台頭や、オーガニック製品を取り扱うホールフーズの登場、石油化学製品に代わるエコロジカルな製品が支持されるなど、消費活動における新たなムーブメントが生まれたのもこのころです。私たちの製品の人気が口コミで高まり、急成長をしていく変化は顕著でした。
それでもなお、私たちには取り組むべき課題が常にありました。オーガニック化粧品の正当性の保護に乗り出し、認証制度の取得を徹底して、2003年からはマジックソープのボトルを100%リサイクルプラスチックに変更し、より持続可能なパッケージの模索を始めました。今年7月には、アメリカで紙パック入りのリフィルを発売するなど、真の循環型システムの実現に向けた挑戦は今も続いています。また、本社や工場など、すべての電力を再生可能エネルギーに切り替え、埋め立て廃棄物ゼロ、効率的な輸送、環境に配慮した梱包、そしてリジェネラティブ・オーガニック(以下RO)農法の実践により、大気中のCO2削減に貢献する小規模農家からの原材料調達を進めています。2025年末までに100%クライメイト・ポジティブを目指し、野心的に取り組んでいます。
オーガニック成分に対するこだわり。
リジェネラティブ・オーガニック認証を通して見えてくる社会的な課題
──2020年にはパタゴニア(Patagonia)をはじめ、NPO、第三者認証機関、生産者、土壌と気候の専門家らとともに、業界を超えて連携しながらリジェネラティブ・オーガニック認証(RO認証)を立ち上げました。
こうしたコラボレーションは自社の誇りでもあります。まずRO認証は、農業を通じた「土壌の回復・構築」、「動物福祉の確保」、そして「農家と農民の不公正の是正」が柱です。これを実践することにより、気候危機はもちろん、工業型農業や農村経済の分断問題など、現代社会が抱えるさまざまな問題への長期的な解決策になりえるのです。これからの時代は、農業を基盤とするサプライチェーンをROに移行する企業こそ、地球環境に対しポジティブなインパクトをもたらすと信じています。そして、気候変動危機に終止符を打つためには、この地上に生きる全人類の結束が必要不可欠だと考えています。
──フェアトレードの取り組みは、いつから始まったのでしょうか?
北半球の市場でフェアトレード製品を商品化する初の試みは、1940年代〜1950年代に宗教団体やNGOから始まっていました。一方、企業によるフェアトレードへの取り組みが始まったのは1990年代後半になってからで、私たちも2000年代初頭に、フェアトレード認証の取得に向けて、サプライチェーンと地球環境の関係について改めて見直したんです。すると、流通の段階でさまざまな仲介業者が入るため、現場生産者の声が聞けないどころか、フェアトレード認証を取得した原材料も、必要最低限の量すら入手できないという困難に直面しました。
──それをどう乗り越えていったのでしょうか?
2005年以降、フェアトレードのオーガニック原材料への移行や、ROなどを通じた新たなサプライチェーンの構築と運用に乗り出しました。世界初のオーガニック認証とフェアトレード認証を取得したココナッツオイルを供給するセレンディポール社をスリランカに、そしてガーナにも同認証を取得したパームオイルのサプライヤーであるセレンディパーム社といった姉妹企業を立ち上げました。そのほかにも、パレスチナのカナン・フェアトレード社など、世界中の独立系企業と緊密なパートナーシップを構築し、2007年には主要製品すべてで“フェア・フォー・ライフ・プログラム”のフェアトレード認証を取得しています。
現在は、これらのフェアトレードプロジェクトを通じて、現地に学校や病院を建設するなどの地域開発プロジェクトを推進し、約2万5000人の農業従事者、従業員、およびその家族に直接利益を還元しています。さらに現地の農家にはRO農法を指導し、近い将来製品に採用されるすべての主要原材料のRO認証を取得することを目指しています。
B Corp認証が示す、圧倒的な存在感
──厳しい基準が特徴のB Corp認証におけるトップランナーであり、2015年には148.8点、2022年は206.7点と、スコアも年々上げています。この結果を導き出すことに成功した背景とは?
B Corp認証を取得した理由は、第三者認証機関からの評価を受けるためでした。認証取得以来、常に廃棄物の発生量や温室効果ガスの排出量、電力消費など、環境への影響に関連するデータを計測しながらコミットメントを高めてきました。この結果は毎年発行される「オールワンレポート」で共有され、環境フットプリントの削減に向けた進捗状況を記録しています。スコアの上昇は、特に「環境」と「コミュニティ」のセクションで見られますが、革新的な製造システムによる環境への影響の分野でも多くのスコアを獲得しています。
例えば、効率よく熱エネルギーを移動させられる機械を導入することで、製造工程における天然ガスと電力消費量を削減したり、従来の廃水処理よりも環境に優しいろ過薬品を使用した廃水処理プラントを設置し水を再利用するなど、無駄を減らす最新の環境技術は積極的に取り入れています。また、先に述べたROやフェアトレードのほか、海外の小規模サプライヤーへの支援や貧困問題への取り組み、慈善事業への寄付等も行っています。
──これまでの地道な取り組みが数字に繋がっているのですね。
B Corp認証の中でも世界上位5%の「Best for the World」に選出されましたが、一連の取り組みはB Corp認証のために行っているわけではもちろんありません。企業として世界に与える影響に対して責任を負っており、自らに高い基準の説明責任と誠実さを持つよう課しているからです。特に、RO認証の拡大はB Corp認証でのハイスコア獲得以上に心血を注いでいると言ってもいいでしょう。RO認証は、ドクターブロナーの価値観そのものです。これからも、企業理念を尊重しつつ、ほかのモデル企業とともに最高の模範となるための努力を続けていくつもりです。
──2023年8月25日には、「オールワンビジョン」の日本語訳をプリントした75周年限定パッケージが発売されますが、この取り組みの意義と可能性についてを教えてください。
1940年代に祖父のエマニュエル・ブロナーの唱えた企業理念「オールワンビジョン」は、時代や国を超える普遍のメッセージです。地球という名の一つの船に乗る人類と、生きとし生けるものへの敬意と団結への想いが込められた哲学が、このパッケージを手に取る一人ひとりの心に響いて、より広く共鳴していくことを願ってやみません。
Text: Masami Yokoyama Illustration: Sheina Szlamka Editor: Mina Oba Digital Producer: Kyoko Ishima
August 28, 2023 at 10:00PM
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