蚊が好む人の匂いを特定石鹸で洗うと引き寄せる場合も研究 - ナショナルジオグラフィック日本版

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走査電子顕微鏡で撮影したメスのガンビエハマダラカのカラー化画像。人間の血を吸って膨れ上がった腹部が確認できる。メスはオスより触覚の毛が少ないことで見分けられる。緑色の複眼の下に伸びる赤い管は口吻（こうふん）で、皮膚に突き刺して血を吸うための吻針（ふんしん）と呼ばれる器官がある。（MICROGRAPH BY DR TONY BRAIN, SCIENCE PHOTO LIBRARY）

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　米カリフォルニア州立大学サクラメント校の英語学准教授キム・ザリンスさんは、大いに蚊に好かれている。ザリンスさんがあまりにも蚊を引き寄せるため、18歳の息子は、屋外に出る際に彼女を誘うほどだ。なぜなら、母親がおとりとなって「自分は安全を確保できるのを知っているから」だと、ザリンスさんは言う。

　ザリンスさんのような人々の存在は、何がこの吸血動物を引き寄せているのかを科学的に特定するうえで役に立つ。

「蚊は人間を感知する能力に驚くほど長けています」と語るのは、米ジョンズ・ホプキンス大学の神経科学者ディエゴ・ヒラルド氏だ。マラリアを媒介するアフリカの蚊、ガンビエハマダラカ（Anopheles gambiae）を引き寄せる人間の匂いの特徴を明らかにした新たな研究の著者のひとりでもある。2023年6月19日付けで学術誌「Current Biology」に発表されたこの研究により、蚊はアイススケートリンクほどの広い空間にいる複数の人間を識別できることが初めて示された。

　蚊はうっとうしいだけでなく、ジカ熱、デング熱、マラリア、西ナイル病といった深刻な病気を媒介する。また、これまでは病気を媒介する蚊が多いのは主に熱帯性気候の地域だったが、地球温暖化の進行に伴って生息域が拡大しており、米国でもコネチカット州、カリフォルニア州、アリゾナ州などにも現れている。

　蚊はさまざまなヒントを頼りにターゲットにたどり着く。匂いは動物と人間とを区別する手がかりであり、一部の蚊は、人間に独特の匂いを探し当てるよう進化を遂げている。

　60メートル離れたとこからでも、蚊はわれわれが吐き出す二酸化炭素を追跡してくる。それより数メートル近づけば、人間の足、わきの下、皮膚から発せられる匂いを嗅ぎつける。15メートルの距離まで来ると、光をバックにした暗い人影を認識できるようになる。そしてついには、熱のかたまりである人間の体に導かれて、蚊は理想の地に降り立ち、脚に備わった味覚受容体を頼りにどこを刺すかを決定する。

蚊が好む匂い

　ヒラルド氏の実験では、200匹の蚊がいる中央の実験空間に向かって、人が中に1人ずついる8つのテントからダクトを通じて空気が送り込まれた。実験空間内のダクトの出口には、人の体温ほどに温められた黒い円盤が設置されており、人の匂いはその上に吐き出されるようになっていた。

　赤外線カメラで、各円盤に止まった蚊の動きを撮影した。その結果、最も多くの蚊を引き寄せた被験者の円盤には、引き寄せた数が最も少なかった被験者の円盤に比べて4倍多く蚊が止まったことがわかった。「この結果は、匂いの発生源が複数ある複雑な環境においても、蚊は特定の人々を特に好むことを示しています」とヒラルド氏は言う。

　次に研究者らは、気体を成分ごとに分離できる機器を用いて、各被験者の匂いに含まれる物質を特定した。「しかし、人間の匂いは恐ろしいほど複雑なのです」と、研究に参加したジョンズ・ホプキンス大学の化学者ステファニー・ランキン・ターナー氏は言う。人間の匂いの中には、「これまで誰も分類したことのない物質がたくさん含まれています」。対象を絞るために、研究者らは人間の匂いを構成することが知られている物質に焦点を当てることにした。

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