「僕は誰にも悟られることなく美晴を想っていたい、ただそれだけです。この結婚は外野から余計な干渉や詮索をされないためのものです。そして僕にとって結婚相手である大加戸さんも外野の一人」
百瀬(坂口健太郎)から結婚当初から言われていた冒頭の言葉も、彼のことが気になり始めた明葉(清野菜名)にとっては“心のシャッターを下ろされた”と感じる寂しい響きを帯び始め、本格的に彼女の中で恋のフラグが立ってしまった『婚姻届に判を捺しただけですが』(TBS系、以下『ハンオシ』)第3話。
兄の妻・美晴(倉科カナ)にフィナンシェを持って行くも、すんでのところで兄・旭(前野朋哉)に先回りされてしまい、自分が買ってきた分はそっと仕舞い込んでしまう百瀬が切ない。また、美晴との初恋を語る百瀬のあまりに純粋すぎる一方通行な想いにも胸を突かれる。どう考えても片想いをする側ではない坂口なのに、どうしてかこの役柄が違和感なくハマってしまうのが彼の不思議な魅力だろう。
「美晴が僕の世界を広げてくれたんです。ただ、気づいたら美晴と兄貴は結婚してて、僕はいつの間にか義理の弟になってて……。でもそれで美晴が幸せなら僕はそれでいいんです。僕の美晴への想いも変わることはありません」
この言葉に、惜しまれながらも先日最終回を迎えた『おかえりモネ』(NHK総合)でのヒロイン・百音(清原果耶)と坂口が演じた菅波が時間をかけて徐々に徐々に互いの世界を拡張し合ったさまを思い出した人も少なくないだろう。
そういえば菅波も、登米の診療所で全く自分とはタイプの違う中村先生(平山祐介)とタッグを組んでいた。また、温かな森林組合の方々や地元の人と触れ合う中で、心の中にある重りを徐々に下ろしていき、彼自身がほぐれていくと同時に、どうしようもない人間味が滲み出ていて、そんな菅波に我々視聴者もどんどん夢中になっていった。本作でも、顔も性格も何もかも似ても似つかぬハートフルな兄・旭がいることで、百瀬のドライな部分や理屈っぽいところが際立つ一方で、とてつもなく不器用で実直な一面も同じように引き出されている。坂口の面白いところは、一見したところ正反対かに見えるタイプの人物像を近くに配置しても違和感なく、むしろその凸凹感さえマッチして見えるところにあるかもしれない。
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